三圭社の出版ご案内
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長谷川さんのこの作品、制作過程において配文・用刀・章法とも十分な推敲と選別がなされていることが見て取れます。工夫もしていますね。 芸術品そのものとは、会話ができるものなのです。いろいろな説明とか解説とかは不要で、芸術品には自らが発する説得力と言うものがあります。 この印を具体的に見て行きましょう。五字の処理は二行で収め、そのまとめ方はリズミカルです。用刀も筆で書くがごとく軽快で力と刀韻があります。また、文字の間に意識的に残された石のクズ、これは作者の本意を理解できますし、この残点によって「金石之気」(「古朴の気」あるいは「朦朧の美」とも言える)を増加させることには一応成功しています。 「金石之気」、これは篆刻の作者なら誰でもが追求する境地ですが、必ず全印的に見て「統一」と「調和」の基礎の上に立って求めることが大切です。「金石之気」にこだわるあまり、何か作り込んだ感じになったり、わざとらしく撃辺を加えた感じになったのでは、看る者にその真の「気」を感じてもらうことはできません。 例えば、呉昌碩の「石墨刀」印をご覧ください。気格の古拙と用刀の厚重、その上で残破の印面処理を加えて、この三つが見事に融合して一つにまとまっています。さらには、雄(雄大)・蒼(古さ)・渾(厚み)の芸術効果を上げています。
もう一つ、黄士陵の「フツ侯」印はどうでしょう。用刀は軽やかにして鋭く、人の目にパッと入ってくる美しさ、そして内在する強さがあります。吉金(古璽・金文)の篆文を加えて鑑賞してみても、これらは残破の処理が無くとも、高古雅馴の芸術効果を得ています。我々後学の者にとってこの辺は大いなる啓発になりますね。
以上述べたことを参考にして、私は二種の添削アドバイスを示しました。 補筆Aでは、印辺を長谷川さんのそれよりも太くしました。視覚的に残点を目立たせたくなかったのです。補筆Bでは、残点をダイレクトに減らしてみました。これにより、強さ・洒脱の美しさを出すことができたと思います。 李白の詩に「天然去彫飾、清小出芙蓉」とありますが、これこそ「美」の高い境地を示すものでしょう。長谷川さんはどう思われますか。
この印は、五字印の固有の形態論によると「寿」だけを長方形にして「五福」「一曰」「寿」の直三行の章法でまとめられています。この構図で穏やかさが生まれたと思います。 「五福」の行を若干幅広にして、「一曰」の行は両字ともに画数が少ないので、やや細めに処理されていますが、この印の直三行の分け方を考えてみると、3×2×3の比例になっていて、作者の推敲が伺えます。 章法は印章構成の重要な柱ですが、それは印章構成の全てにはなり得ません。篆法における好処理も必要ですし、刻る時の用刀技法もやはり必要です。つまり印章構成には、章法と篆法そして刀法の好融合が必要なのです。これらが無いと創作的な篆刻作品の完成美には近づくことができません。 もしこの印を高いレベルで要求するとしたら、やはり篆法と刀法の両面を高めるべきでしょう。 まずこの印の篆法ですが、「福」字では偏の「示」が上部が小さく、下部は大きい。また旁の方では、上はスカスカ、下は緊張しています。「福」の字形としてはアンバランスな感じです。ここはぜひ修正したい。この他、「曰」字を全印的な篆法上で考えてみると、「曰」字の下方は∪ではなく方正が良いでしょう。さらに「寿」の「口」部分も下方へと伸ばして、もともと不必要と思われる朱の部分を取ってしまいましょう。こうすればこの印の「統一」と「調和」がさらに生まれてくると思います。 ここで一つ、私が篆刻学習上で会得したことをお話ししておきます。白文の印を刻する時、普通漢の繆篆を印の中に入れると、「平方正直」となり容易に良い効果が得られます。もし円融的な小篆を印の中に入れると、その難易度は相当高くなります。明清の多くの印人について考えてみても、円融的小篆の印で成功しているなと思える作品は決して多くありません。この一つの認識(まずは「平方正直」から)は、たぶん高さんの参考になるのではないでしょうか。 次に用刀を見ると、刀に対する習性把握がまだ出来ていません。刀法に力不足の感ありです。ツゥーと刀を運ぶ衝刀をもって刻るようにすると線条は爽やかなものになります。 高いレベルの用刀によってできる作品の張力と内力、そして章法・篆法・刀法の三美合一となった作品こそが人を感動させるのです。 作者の原印を元にして、補筆をしてみました。今後の制作のヒントをそこからつかんでいただけたらうれしいです。
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